#39 リスクが変われば、監査も変わる
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第39回/章「独立性と倫理」|読了 約4分
答えのない、新しさ
内部監査人には、倫理の5原則があります。誠実性、客観性、専門的能力、正当な注意、秘密保持。
このうち専門的能力を、正しく発揮するには、力がいるんですね。世界が変われば、組織が向き合うリスクも、変わっていきます。
今回は、その専門的能力に、踏み込んでいきます。変わり続けるリスクに、内部監査人の力は、追いつき続けられるのか。
そこを、見ていきましょう。
少し、想像してみてください。ある朝、ニュースで、大きなデータ問題が報じられました。
それを見た、皆さんの会社のCEOが、ふと、内部監査部門に聞くんですね。「うちは、こういうデータの扱い、大丈夫なんだろうか」。
さあ、皆さんなら、何から確かめますか。
どんなデータプライバシーの規制があるのか。自社のどの業務に、それが関わるのか。
もし、すぐに答えられなかったとしても、それは、恥ずかしいことではないんです。リスクが新しすぎて、まだ誰の手元にも、答えがない。
問題は、その分からなさに、どう向き合うかなんですね。
責任は、手放せない
内部監査人に求められるスキルは、大きく変わっているんです。従来は、会計と財務の知識が、中心でした。
帳簿を見て、数字の辻褄が合っているかを確認する。それが、主な仕事だったんですね。
でも、今は違います。会計という母語だけでは、新しいリスクの言葉が、聞き取れない。
リスクは、次々と、新しい言語で話しかけてくるんです。
その新しい言語が、何かというと。データ分析、英語でData Analytics、大量のデータから傾向や異常を読み取る技術ですね。
サイバーセキュリティ、情報システムを攻撃から守る領域。ESG、環境や社会、ガバナンスへの取り組みが正しく開示されているか。
そして生成AI。リスクの種類が、爆発的に増えているんです。
ここで大切になるのが、専門的能力の、2つの側面なんですね。1つ目は、自分の能力の範囲を、知ること。
自分の力を超える業務は、引き受けない。誠実性の話とも、つながります。
分からないことを、分かったふりをしない。自分を過信せず、限界を見極める。
それが、プロとしての出発点なんです。
2つ目は、外部の専門家を、活用することです。全てを自分で、知る必要はありません。
GIAS 2024、内部監査の世界共通の基準でも、組織内で確保できない専門能力は、外から調達してよいと、認められています。
たとえばサイバー攻撃の監査なら、専門の会社の力を借りて、内部監査人と一緒にチームを組む。これを、コソーシングと呼ぶんですね。
ただし、外に出したからといって、責任まで手放せるわけではないんです。誰に任せ、その結果をどう確かめるか。
そして、出てきた監査の結論と品質に、責任を持つのは。最後まで、内部監査の側なんですね。
心理プロファイル
2018年、世界を揺るがせた事件があります。Cambridge Analytica事件ですね。
きっかけは、ある性格診断アプリでした。「This Is Your Digital Life」という名前の、クイズアプリ。
約27万人が、ダウンロードしたんです。
ところが、このアプリは、裏で別のことをしていました。
Facebookの仕組みを通じて、ダウンロードした本人だけでなく、その友人のプロフィール情報まで、取得していたんですね。
結果、27万人を起点に、最大8,700万人分のプロフィール情報が、不適切に共有されてしまいました。
冒頭のCEOが案じていたのは、まさに、こういう事態なんです。
ここが、ポイントなんです。本人が同意したのは、自分の情報だけでした。
それなのに、友人のネットワークを経由して、規模が、芋づる式に広がってしまった。同意した範囲と、実際に広がった範囲が、まったく違ったんですね。
集められた情報は、心理プロファイルの構築に使われました。一人ひとりの考え方の傾向を、データから推定するんですね。
そしてその心理プロファイルは、Cambridge Analytica社を通じて、2016年の米国大統領選挙の選挙運動に、利用されてしまいました。
あの事件の、とき
この事件を受けて、FTC、アメリカの連邦取引委員会が、Facebookに制裁金を課しました。その額、50億ドル。
日本円にすると、当時のレートで、およそ5,400億円です。FTC史上、最高額でした。
データの扱い方が、これほど重い責任を、企業に問うようになったんですね。
この回で、覚えてほしいのは、ここです。リスクが変われば、監査も変わる。
会計の知識だけでは、もう追いつけない領域が、生まれているんです。だからこそ、専門能力には、2つの側面がありました。
1つは、自分の限界を、知ること。もう1つは、外部の力を、借りること。
全てを自分で知る必要は、ないんです。
さて、最初の場面に、戻りましょう。CEOから、データの扱いは大丈夫か、と問われたとき。
きちんと監査できる人が、どれだけいたのか。あの事件のとき、答えはまだ、誰の手元にもなかった。
誰もが、手探りだったんです。だからこそ、学び続ける力が、要るんですね。
次の回へ
分からないと言える人が、いちばん頼りになります。皆さんの職場では、その一言が出ていますか。
では、その足りなさを埋める力は、どこから来るのか。次の回で、その源をたどります。
全てを自分で抱えなくていいと知っていれば、手に負えない案件で、詳しい人を早く呼べます。
この回の持ち帰り
リスクが変われば、監査も変わる。全てを知る必要はない。限界を知り、外部の力を借りる
内部監査の「考え方」を、演習で確かめる。
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