#38 倫理は判断の羅針盤
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第38回/章「独立性と倫理」|読了 約4分
何を、基準に動くか
内部監査の仕事には、倫理の5原則があります。誠実性、客観性、専門的能力、正当な注意、秘密保持。
この原則は、平時には当たり前に見えても、NSAの内部情報を暴露したスノーデンや、Facebookの内部文書を告発したホーゲンのように、正しさと正しさが板挟みになる場面で、真正面から試されます。
ただ、内部監査人の仕事は、彼らのように、組織の外へ告発することではありません。
では、組織のなかで板挟みの場面に立ったとき。内部監査人は、いったい何を基準にして動けばいいのか。
今回は、その判断の基準を、見ていきます。内部監査人と告発者の違いも、ここで、はっきりさせていきますね。
内部から、是正する
組織のなかで、明らかに問題が起きている。けれど、なかなか是正されない。
そんな板挟みの場面での行動指針は、3つの段階で、整理することができます。これは、内部監査人にかぎらず、組織で働く誰にとっても通じる手順です。
順番に、見ていきましょう。
1つ目は、組織内の適切なチャネルで、報告すること。いきなり外へ出すのではなく、まず組織のなかの、しかるべき相手に伝えるんですね。
身近なところでは、内部通報の窓口や、コンプライアンス部署、上司。会社の規模や仕組みで、相手は変わります。
内部監査の立場なら、取締役会や監査委員会といった、経営を監督する機関へ報告します。
2つ目は、見つけた問題が法律違反にあたる場合、その法令が求める手続きに従うこと。ただの社内ルール違反ではなく、法律違反にあたるとき。
そのときは、その法律が定める通報や報告の手続きに、従うんです。
そうやって声を上げた人を、報復から守る仕組みについては、このあと、公益通報者保護法で詳しく見ていきます。
そして3つ目が、倫理原則を、判断の基準にすること。誠実性、客観性、専門的能力、正当な注意、秘密保持。
この5つの原則そのものを、どう動くかを決める、ものさしとして使うんですね。
ここで、内部監査人の立ち位置を、はっきりさせておきます。3ステップのうち、1つ目の、組織内のチャネルで報告すること。
これこそが、内部監査人の本来の仕事の中心なんですね。スノーデンやホーゲンのように、外へ告発する人になるのが、あるべき姿ではありません。
組織の内側から、是正の声を届ける。それが、内部監査人の役割なんです。
看板か、機能か
その、組織のなかで声を上げる人を守るための法律が、公益通報者保護法です。2004年に制定された、日本で初めての、内部告発者を守る法律なんですね。
問題を通報した人が、それを理由に、解雇されたり、不利益な扱いを受けたりしないよう、保護することを目的にしています。
この法律は、改正のたびに、保護を強める方向へ進んできました。通報を理由とした不利益な扱いの禁止は、制定時からのものです。
そのうえで、2020年に成立し、2022年に施行された改正では、従業員300人を超える企業に、内部通報を受け付ける体制を整えることが、義務づけられました。
内部通報に対応する体制を整えなさい、ということですね。
そして、2026年12月1日に施行される改正では、保護がさらに強まります。
通報を理由に解雇や懲戒をした場合、その行為者にも、法人にも、刑事罰が科されることになりました。
声を上げた人を守る仕組みが、罰則の裏付けを持つようになる、ということなんですね。
さらに、この改正には、もうひとつ大きな変化があります。これまでは、通報者の側が「報復された」と証明しなければなりませんでした。
それがこれからは、会社の側が「これは報復ではない」と示す側に、回るんです。この変化を、立証責任の転換、と呼びます。
このように、制度は、通報者を守る方向へ着実に進んでいます。
海外では、たとえばアメリカのドッド・フランク法のように、通報者に金銭的な見返りを用意して、通報を促す制度もあります。
日本の公益通報者保護法には、そうした仕組みはありません。
やり方は国によって違いますが、声を上げた人を守る方向へ制度が動いている点は、共通しているんですね。
ここで、皆さんの組織のことを、思い浮かべてみてください。内部通報の窓口は、ありますか。
その窓口があることは、社員にちゃんと知らされているでしょうか。使ったら守られる、と信じられる雰囲気が、あるでしょうか。
窓口が「ある」ことと、「機能している」ことは、まったく別の話なんです。看板だけの窓口は、無いのと、同じなんですね。
地図に、ない場面でも
この回で、覚えてほしいのは、ここです。ハッキリ言います。
倫理は、守るべきルールじゃないんです。困難な状況で、何を基準に判断するか、なんです。
誠実性、客観性、専門的能力、正当な注意、秘密保持。
この5つの原則は、板挟みになって、どこへ進めばいいか分からなくなったとき、立ち返るための、羅針盤なんですね。
地図は、すでに分かっている場所しか、描いてくれません。でも羅針盤は、地図にない場所でも、進む方向を示してくれる。
マニュアルに書いていない場面で、何を基準に行動するか。それを示してくれるのが、倫理原則、なんです。
次の回へ
5つの原則は、暗記ではなく、迷った日に皆さんが取り出せるかどうかです。では、その取り出す力は、世の中が変わっても足りるのか。
次の回で、変化の速さを見に行きます。倫理が判断の基準だと頭に入れば、迷った案件で、誠実性と秘密保持のどちらが揺れているか、言えます。
この回の持ち帰り
倫理は守るべきルールではない。困難な状況で何を基準に判断するか、その羅針盤
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