#37 黙るか、声を上げるか

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第37回/章「独立性と倫理」|読了 約4分

仕組みで、解けない場面

内部監査人には、経営者から独立した立ち位置と、人の頭の中にある客観性が、求められます。ただ、この2つは、個人の心がけだけでは守れません。

だから、誰に報告するかを定める報告ラインや、担当替えといった、仕組みで守るんですね。

ところが、です。仕組みを整えても、それだけでは答えの出ない場面が、あるんです。

正しさと正しさが、真正面からぶつかる。そんなとき、内部監査人は何を支えに動けばいいのか。

ここからは、倫理の話に、入っていきます。

当たり前のはず、が

まず、土台になる枠組みです。GIAS 2024、内部監査の世界共通ルール、グローバル内部監査基準の2024年版ですね。

そのなかの Domain II、「倫理と専門職としての気質」という領域に、内部監査人が守るべき原則が定められています。以前の倫理綱要は、4原則でした。

正当な注意が、いまは独立した原則として明示され、5つになったんですね。

1つ目が、誠実性です。嘘をつかない、正直であること。

そして、たとえ都合が悪くても、事実を曲げずに伝える勇気のことでもあります。これが、ほかのすべての原則を支える土台になります。

2つ目が、客観性。自分の利益や、他人の影響に流されず、偏りのない判断をすること。

判断が偏ってしまう、バイアスの話ともつながりますね。

3つ目が、専門的能力。業務に必要な知識やスキル、経験を持ち、それを保ち続けること。

分からないことを、分かったふりをしない、ということでもあります。4つ目が、正当な注意。

手を抜かず、情報をうのみにせず根拠を確かめる、職業的な懐疑心を持って仕事に当たること。そして5つ目が、秘密保持。

業務で知り得た情報を、勝手に外へ出さず、適切に守ることなんです。

5つ並べてみると、どれも、当たり前のことに聞こえますよね。嘘をつかない、手を抜かない、秘密を守る。

平時には、わざわざ意識するまでもない原則に見えるんです。

原則が、ぶつかる場所

ところが、現実は、そう単純ではないんですね。ここで、ひとつ、天秤を思い浮かべてみてください。

倫理原則のなかの「誠実性」と「秘密保持」。この2つが、天秤の両端に置かれて、同時に、外向きに引っ張り合う瞬間があるんです。

秘密を守ろうとすれば、誠実さが揺らぐ。誠実であろうとすれば、秘密が破れる。

それを、世界が目撃した事件が、あります。2013年6月。

エドワード・スノーデン。アメリカのNSA、国家安全保障局で働いていた、契約職員です。

彼が、アメリカ政府による大規模な監視プログラムの存在を、外部に暴露したんですね。

スノーデンが明るみに出したのは、政府が法律を盾に、私たちのデータを広く集めていた、という構図でした。ひとつは、PRISMという仕組み。

FISA、外国情報監視法を根拠に、IT企業が抱える利用者データを取得していました。

これとは別に、愛国者法というもうひとつの法律を根拠に、通信会社から、国民の通話記録が一括で集められていたんです。

さて、スノーデンは、国家機密を漏らした犯罪者なのか。それとも、国民の知る権利を守った、英雄なのか。

これは、世界の評価が、いまも割れています。ここで大事なのは、どちらが正しいかではありません。

彼が立っていたのが、内部監査人にも通じる、秘密保持と誠実性という2つの価値が、真正面からぶつかる場所だった、ということなんですね。

告発者とは、違う

もうひとつ、見ておきたい事件があります。2021年。

フランシス・ホーゲン。Facebook、いまのMetaで、プロダクトマネージャーをしていた人物です。

彼女は、会社のアルゴリズムが社会に害を与えていることを示す内部文書を、数万件、集めていました。

ホーゲンが、スノーデンと違うのは、外に出す前に、まず社内で改善を試みた、とされる点なんですね。内部で声を上げて、それが機能しなかった。

そのうえで、SEC、証券取引委員会への苦情提出と、メディアへの情報提供を選んだんです。

いきなり外部へ出たスノーデンと、内部で試してから外へ向かったホーゲン。同じ板挟みでも、進んだ道は違いました。

この2人が、私たちに示しているのは、ひとつのことです。倫理の5原則は、平時には、当たり前のことに見える。

けれど、その原則が本当に試されるのは、誠実さと秘密のように、正しさと正しさが板挟みになった、その瞬間なんですね。

だからこそ、平時のうちに、考えておいてほしいんです。

ただ、ひとつだけ、先にお伝えしておきます。内部監査人の仕事は、スノーデンやホーゲンのように、組織の外へ告発することではありません。

組織の内側から、声を届けて是正する。そこが、外部の告発者とは、はっきり違うんですね。

次の回へ

黙るか、声を上げるか。その分かれ道は、いつもの午後に、皆さんの前に置かれます。

では、迷ったときに立ち返る先は、どこにあるのか。次の回で、その拠りどころを取り出します。

試されるのは板挟みのときだと分かれば、平時のうちに、誰に相談するかを決めておけます。

この回の持ち帰り

倫理原則は平時には当たり前に見える。試されるのは、板挟みになったとき

内部監査の「考え方」を、演習で確かめる。

CIA 学習アプリでは、229論点の問題演習に加えて、論点ノートも読めます。会員登録なしで、まずは10問だけ無料で試せます。

無料10問を試す(登録不要) 論点ノート(冒頭無料)を読む

料金・詳しくは