#36 客観性も仕組みで守る

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第36回/章「独立性と倫理」|読了 約4分

監査人自身は、どうか

客観性は、偏りなく判断できるかという、個人の資質でした。

固体ロケットブースターを作った、モートン・サイオコール社とNASAが関わったチャレンジャー号の事故では、データも、専門家の警告もあったのに、認知バイアスが重なり、判断は歪んでしまいました。

ここで、ひとつ、考えてみてください。バイアスに負けたのは、NASAやサイオコール社の人たちだけなのか。

監査をする側、内部監査人自身は、どうなのか。今回は、その答えを、見ていきます。

自己奉仕バイアス

答えは、残念ながら、ノーです。内部監査人も、人間ですから。

バイアスと、無縁ではいられないんですね。だからこそ、自分が陥りやすいバイアスを、知っておく必要がある。

特に注意したいバイアスを、3つ紹介します。

1つ目が、親密性バイアスです。同じ部門を、何年も担当していると、現場の担当者と信頼関係ができますよね。

これ自体は、悪いことではありません。でも、「あの人が言うなら大丈夫だろう」と思った瞬間、批判的な目が緩み、チェックが甘くなるんです。

2つ目が、アンカリングバイアスです。過去の監査結果に、引きずられてしまうことですね。

「前に、問題がなかったのだから、今回も大丈夫だろう」。

チャレンジャー号事故でも、「これまでの打ち上げは大丈夫だった」という過去の成功が、判断を縛りました。あれと、同じ構造です。

過去の前提にしがみついて、新しいリスクを見逃すんです。

3つ目が、自己奉仕バイアスです。自分が過去に出した助言の効果を、無意識に、高く見積もってしまうことですね。

「自分のアドバイスのおかげで、良くなった」と、思いたくなる。これは、自分の答案を、自分で採点するようなものなんです。

自分の助言を、自分で評価すれば、どうしても甘くなる。現場は、それほど改善していないかもしれません。

防御③標準化/客観性も仕組みで

ここで、ひとつ、思い浮かべてみてください。車輪が、ぬかるんだ道を、同じところばかり通り続けると、どうなるか。

地面に深い溝、轍ができて、車輪はその轍に、はまり込みます。同じ担当が、同じ現場を見続ける。

とくに、ひとつ目の親密性バイアスは、この轍に、よく似ているんですね。

では、どうすればいいのか。まず、知っておいてほしいことがあります。

バイアスは、完全には排除できないんです。人間の脳の仕組みそのものだから、なんですね。

意志の力だけでは、消し切れない。だからこそ、対策は、個人の努力の外側に置くんです。

その対策が、構造的な防御です。1つ目が、担当替え、ローテーション。

同じ人が、同じ部門を担当し続けないようにして、親密性バイアスや、轍を避けます。ただ、監査部門が少人数で、担当を回せない組織もありますよね。

その場合は、利害関係のない他部署の人に結果を見てもらう、外部の視点を借りる。そんな形でも、ひとりの視点に閉じない工夫はできます。

2つ目が、相互チェックです。ひとりが出した監査結果を、別の監査人が、もう一度チェックする仕組みですね。

ひとりの判断に、依存しないようにする。大切なのは、ただ追認するのではなく、別の人の目で、もう一度確かめることです。

それとは別に、もうひとつ。集団思考、覚えていますか。

全員が賛成しているように見える状態ですね。これを防ぐには、合意ができていく途中で、あえて違う見方をぶつける役割が有効です。

成果物を後から確認する相互チェックとは、別の打ち手なんですね。

3つ目が、標準化された、監査手続きです。チェックリストや手順書を使えば、誰が担当しても、判断のブレを最小限にできる。

過去に問題なかったから、で済ませず、毎回、同じ手順で確かめます。独立性、つまり内部監査部門の立ち位置も、仕組みで守るものでした。

客観性も、同じです。個人の心がけだけでなく、仕組みで補うんです。

客観性も、仕組みで守る

ここで、皆さん自身のことを、振り返ってみてください。同じ取引先、同じ部署と、何年も付き合ってきて、「この人なら大丈夫」と感じた経験は、ないでしょうか。

あるいは、過去にうまくいったやり方を、今回も、無意識になぞっていないでしょうか。

もし思い当たるなら、それは、責められることではありません。人間なら、自然なことなんです。

大切なのは、そこで一度、立ち止まれるかどうか。「自分の見方が、甘くなっていないか」と、自分に問えるかどうかなんですね。

この回で覚えてほしいのは、ここです。バイアスは、完全に避けきれるものではありません。

人間である以上、バイアスからは、逃れられない。大切なのは、自分の判断がバイアスに影響されているかも、と認識することです。

たとえば、結論を出す前に「この担当が長いから、見方が甘くなっていないか」と、一度自問する。それだけでも、第一歩です。

そして、自問だけで終わらせない。そのうえで、担当替えや相互チェックといった仕組みで、補うんです。

その仕組みは、組織の規模に応じて、できる形でかまいません。バイアスに気づき、規模に合った形で仕組みに落とす。

客観性も、仕組みで守るんですね。

次の回へ

大がかりな体制がなくても、もう一人に見てもらうことはできます。皆さんなら、誰に頼めますか。

では、どちらも正しく見える場面で、何を頼りにするのか。次の回で、その決め手をさがします。

見落としを仕組みで補えるとつかめれば、長い担当の案件に、二人目の目を足せます。

この回の持ち帰り

バイアスは避けるのでなく認識する。客観性も、規模に応じてできる形で、仕組みで守る

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