#18 ルールより強い空気

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第18回/章「ガバナンス」|読了 約5分

ルールより、文化が強い

現場、管理部門、内部監査の役割を整理した3ラインモデルは、組織を守る仕組みです。でも、その仕組みを動かす力は、制度の外にあります。

その制度の外にある力。それが、組織文化なんです。

皆さんの会社にも、ありませんか。建前と、本音が、食い違っている瞬間。

会社のポスターには「コンプライアンス第一」。でも、上司はこう言うんです。

「いいから、数字を出せ」。現場の人は、どっちに従うと思いますか。

ハッキリ言います。多くの場合、後者なんです。

ルールより、強いものがある。それが、組織文化なんですね。

ここからは、なぜルールより文化が強いのか、それを、ある配車サービス大手の物語から見ていきます。栄光から危機へ。

文化が、組織をどこまで傷つけてしまうのか。その実例を、見届けていきましょう。

成長が、すべて

舞台は、アメリカの配車サービス、Uberです。スマートフォンで車を呼べる、あの仕組みですね。

2017年当時の最高経営責任者、CEOは、トラビス・カラニック。彼のもとで、Uberは急成長していました。

実は、この会社、文化規範というものを定めていたんです。文化規範、cultural valuesというのは、組織が何を大切にするかを言葉にしたもの。

それを、なんと14項目も掲げていたんですね。

その14項目の中に、こんな言葉がありました。

「Always be hustlin'」。あがき続けろ、走り続けろ、という意味ですね。

それから、「Toe Stepping」。つま先を踏む。

つまり、遠慮せず意見をぶつけ合え、ということなんです。

成長がすべて。勝てばいい。

それが、Uberに流れる空気だったんですね。

取り締まる側を、欺いた

ところが、2017年2月19日。1つのブログ記事が、この会社を揺らすんです。

書いたのは、元エンジニアのスーザン・ファウラー。配属先での、最初の勤務日のことでした。

直属の上司から、社内チャットで、性的なメッセージが届いたんです。

彼女は、すぐにスクリーンショットを保存しました。そして、その日のうちに、人事部門へ報告したんですね。

ところが、人事の回答は、こうだったんです。「これは、彼の初めての違反です」。

「処罰は、適切ではありません」。「彼は、高業績者ですから」。

この回答、皆さん、どう思いますか。「初めての違反」「高業績者だから」。

これで、声を上げた人が、納得できるでしょうか。しかも、です。

告発のあと、複数の女性が名乗り出たんです。同じ上司の被害が、すでにあった。

つまり「初めての違反」という説明は、事実と食い違っていたんですね。握りつぶされていた声が、彼女のブログをきっかけに、表へ出てきたんです。

ほぼ同じ時期。今度は、社内ではなく、社外に向いた問題が明るみに出ます。

2017年3月、The New York Timesの調査報道で、グレイボールというツールが発覚しました。

そもそもUberは、サービスが認可されていない都市でも、法律を無視して営業を広げていたんです。これは、その違法営業を続けるための仕組みでした。

この仕組みは、アプリを使う相手が、取り締まる側、つまり警察や規制当局の関係者かを見分けます。そして、偽物のアプリ画面を見せたんです。

車が来ない。実在しない車だけが見える。

違法な営業を、当局につかませないようにしたんですね。

ルールを守るのではなく、取り締まる側を、この仕組みを使って欺いていたんです。報道によれば、米国の司法当局も、捜査に乗り出しました。

ルールより強いのは、空気

ここで、整理しましょう。ハラスメントの横行。

内部通報の握りつぶし。規制当局への欺瞞。

この3つ、たった一人の悪人で説明できますか。できないんですよね。

これを許し、広げてしまったもの。それが、組織の文化なんです。

文化というのは、組織に流れる空気のようなものです。目には見えない。

でも、全員がそれを吸って、知らないうちに行動が決まっていく。Uberを壊したのは、まさにこの空気だったんですね。

では、その空気は、誰が作るのか。答えは、トップです。

専門用語で、Tone at the Topと言います。日本語にすると、トップの姿勢ですね。

トップが何を言い、何をするか。それが、その組織の「普通」を決めてしまう、という考え方です。

文化は、自然に湧いてくる空気ではありません。トップが、その背中で作っている空気なんですね。

このトップの姿勢は、統制環境という土台の一部です。統制環境、control environmentとは、組織の倫理観や姿勢の土台のこと。

統制環境は、組織が目的を達成し、不正やミスを防ぐための仕組みである内部統制、その枠組みの中で、5つの部品の、いちばん土台に置かれているものなんですね。

この枠組みを定めたのが、コーソーという、アメリカの団体です。

この枠組みは、世界中で、内部統制の共通のものさしとして使われています。このシリーズでも、これから何度も出てきます。

内部統制の世界的な土台。そう押さえておくと、あとの理解が深まりますよ。

なお、トップの姿勢と統制環境は、イコールではありません。トップの姿勢は、その統制環境を支える、大黒柱なんですね。

覚えておいてください。ルールより強いのは、組織の空気。

逆に、健全な空気が流れていれば、ルールに細かく書いていないことでも、全員が自然と正しく動く。

組織の空気は、組織を壊す凶器にもなれば、組織を強くする武器にもなるんです。

次の回へ

会議で、誰も反対しない。その静けさに、皆さんも心当たりがあるはずです。

では、崩れてしまった空気を、あとから作り直せるものなのか。次の回では、その答えを、一つの会社の物語でつかみます。

作り直し方が分かれば、明日の会議で、まず何を言えばいいかも決められます。

この回の持ち帰り

ルールより強いのは、組織の空気

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