#17 全部のラインが止まった日

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第17回/章「ガバナンス」|読了 約5分

全部のラインが、止まった日 / 3/3

内部監査の独立は、気合いや精神論で守るものではありません。独立は、報告ラインの設計で守るもの。

統治機関への報告と、経営者への報告という2つの経路を持たせる、デュアルレポーティングラインという仕組みです。

組織の守りは、現場の第1ライン、管理部門の第2ライン、内部監査の第3ラインという、3つの層でできています。

では、その3つのラインが、もし全部、連動を止めたら、何が起きるのか。今回は、実際の事件で確かめていきます。

パイロットも、知らされず

舞台は、Boeing 737 MAX という旅客機。

2018年10月29日、ライオンエア610便が、離陸からわずか13分で墜落してしまったんです。乗客乗員189名。

皆さん、全員の命が失われてしまったんですね。

そして、わずか5ヶ月後の2019年3月10日。エチオピア航空302便も墜落してしまったんです。

157名、こちらも全員。原因も同じだったんですね。

原因は、MCASというシステムでした。機首の角度を自動で補正する、飛行制御システムですね。

このMCASに、致命的な欠陥があったんです。機体の角度を測るセンサー。

MCASは、その1つのセンサーの値だけで作動する仕様だった。本来は、複数の備えで支えるもの。

冗長性ゼロが、命取りでした。そのセンサーが1つ壊れれば、MCASは暴走してしまうんです。

しかも、です。パイロットは、MCASの存在すら、十分には知らされていなかったんです。

Boeing側が、その記載を控えるよう、FAAに求めていたからなんですね。暴走しうるシステムを、命を預かる現場が知らされていない。

重い問題なんです。

会社法/内部監査は社内の機能

では、この事件を、3ラインモデルで分析します。

まず、第1ライン。Boeingの設計や製造の現場ですね。

本来、第1ラインは、自分たちでリスクを管理する責任を負う当事者です。

ところが、Boeing全体に染みついた開発優先の空気のなかで、リスク管理よりもコストとスピードが優先された。これが、最初のほころびだったんですね。

では、第2ラインは、どうだったのか。

Boeing社内の品質保証や安全部門、これが第2ラインですね。第1ラインを支え、現場のリスク管理が機能しているかを牽制するのが役割です。

ところが、その第2ラインも、設計上のこのリスクを食い止められませんでした。

なぜ、食い止められなかったのか。

第2ラインが牽制機能を果たすには、2つのものが要ります。現場から独立して「待った」をかけられる立場や権限。

そして、リスクを見抜く情報です。ところが、開発スピードとコストを最優先する圧力が、組織全体を覆っていた。

その圧力のなかで、第2ラインも、歯止めをかける力を持てなかったんですね。

外側にも、問題がありました。FAA、米連邦航空局には、ODA、組織指定認証制度という仕組みがあります。

認証業務を、企業自身に委任する制度ですね。

ただ、FAAやODAは、組織の外の規制監督。社内の第2ラインとは、別のレイヤーです。

外から監督するはずのFAAが、認証の多くをBoeingに委ねた。外と内の境界も、崩れていたんですね。

そして、第3ライン、内部監査です。

内部監査が本来すべきだったことを、はっきりさせます。経営から独立した立場で、リスク管理や統制が機能しているかを評価する。

重大なリスクや統制の弱さを、経営陣だけでなく、統治機関、取締役会や監査委員会へも届ける役割なんですね。

ところが公表資料からは、Boeingの内部監査が、それを十分にできていたとは、言い難いんです。

では、その統治機関の側は、どうあるべきだったのか。

統治機関は、財務リスクだけでなく、製品安全のような、会社の存続に関わる重大なリスクも、監督の対象とすべきでした。

そして、現場や内部監査から、その情報が確実に届く経路を、確保すべきだったんですね。

ところが議会報告書によれば、Boeingでは、監査委員会が財務リスクに目を向ける一方で、製品安全の情報が、取締役会に十分には上がっていなかった、と指摘されています。

実は、重大なリスクを扱う会社には、財務を見る監査委員会とは別に、安全を専門に監督する委員会を、取締役会の下に置くところもあるんですね。

ここで、三様監査という、日本独自の概念を整理します。

三様監査は、内部監査、監査役等監査、会計監査人監査。3つが連携する考え方です。

3ラインモデルとは、別の枠組みなんですね。三様監査は、法律に根拠を持つ監査役等・会計監査人と、社内の機能である内部監査が連携する考え方。

3ラインモデルは、内部監査人協会、IIAが示す組織内の役割分担です。呼び方が似ているだけの、別物なんです。

その「法律に根拠を持つ」とは、どういうことか。

金融商品取引法は、上場企業に2つを求めます。1つは、財務諸表が正しいかを、外部の監査人がチェックすること。

もう1つは、財務報告を支える社内の仕組み、内部統制を整え、その有効性を経営者が評価・報告し、監査人もチェックすること。

これが、J-SOX、内部統制報告制度なんです。

一方の会社法は、監査役などが取締役の仕事ぶりを監査すること、大会社では会計監査人が決算書を監査することを定めています。

三様監査の3つのうち、監査役等監査と会計監査人監査は、こうした法律に位置づけられた監査。内部監査は、会社が自分のために置く、社内の機能なんですね。

3つ「ある」だけでは、足りない

3ラインモデルは、鎖のようなもの。鎖は、一番弱い輪で切れる。

ハッキリ言います。3つのラインは、現場のミスや暴走を、途中で食い止めるための仕組み。

それが全部止まれば、危険の芽を摘む力が、組織のどこにも残らない。組織は、もう止められないんです。

だから、1つのセンサーの故障が、誰にも止められず、346名の命が失われる結果まで進んでしまったんですね。

Boeingの3つのラインは、別々の理由で倒れたのではありません。同じ、開発スピード優先という1つの圧力に、そろって飲み込まれた。

だから、3つのラインが「ある」だけでは、足りないんですね。

問われるのは、3つが、同じ圧力に同時に飲み込まれない強さ、独立して機能できる力を持っているか。

内部監査が独立した第3ラインである理由も、ここにあるんです。

次の回へ

急ぎだから、で押し切られた経験は、きっと皆さんにもあります。では、3つの守りをまとめて飲み込んだ、その圧力の正体は何なのか。

次の回では、制度の外にある力を、たどっていきます。重い話ですが、だからこそ、皆さんの小さな一言が、明日の組織を守ります。

この回の持ち帰り

3つのラインが「ある」だけでは足りない。同じ圧力で同時に倒れない強さが要る

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