#14 見張る機能が崩れるとき
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第14回/章「ガバナンス」|読了 約4分
見張る機能が、崩れるとき
ガバナンスというのは、権限と責任を設計して、方向付け、監督、説明責任という、3つの働きで、権力を律する仕組みです。
その監督を誰が担うかは、国によって違います。
ドイツでは、Supervisory Boardという監督機関が担い、会計監査などを重点的に扱うのが、その中の監査委員会、なんですね。
でも、もし、その仕組みが、形だけだったら、どうなるのか。
今回は、その「形だけの監督」が、何を招いたのかを、見ていきます。
73.6% / 96.5%
ここで、ドイツの決済企業、Wirecardの話をします。
この会社は、ドイツを代表する株価指数、DAX 30の銘柄。指折りの大企業です。
ところが、その会社には、2019年の初めまで、監査委員会が、存在しなかったんです。
監査委員会というのは、経営者の説明を、別の立場から確かめる、経営を見張る中核の組織ですね。
その中核となる監査委員会が、長いあいだ、そもそも置かれてさえいなかった。これは、相当に深刻な話なんです。
ここで、もう1つ知っておいてほしいものが、あります。
ドイツには、企業統治の指針があるんです。ドイツ・コーポレートガバナンス・コーデックス、DCGK。
上場企業が、どう自分を律するべきかを、まとめたルール集ですね。
このDCGK、実は、法律ではないんです。守らない項目があれば、その理由を説明する。
そういう建付けの、ルールなんですね。
では、このルールに、Wirecardはどれくらい従っていたのか。
準拠率は、73.6%だったんです。一方、DAX上場企業の平均は、96.5%。
20ポイントを超える、差です。
この96.5%という平均は、他社が当たり前にルールを守っていた、ということ。
ところがWirecardは、19の項目のうち5つで、「うちは、ここを守りません」と、自ら宣言していたんですね。
監督が、形だけになっていた。それは、気合いや心がけの問題じゃ、ないんです。
数字に、はっきりと表れていたんですね。
あなたの会社では
でも、崩れていたのは、社内の監査委員会だけじゃ、なかったんです。
ここで、傘を思い浮かべてください。傘は、何枚も重なって、初めてしっかり雨を防げますよね。
Wirecardにも、本来、何枚もの傘が、あったはずなんです。しかも、性質の違う傘が。
会社の内側には、内部統制システムと、経営を見張る監督機関。ここでの監督機関は、経営とは別枠で置かれた、二層制のSupervisory Boardですね。
そして会社の外側には、外部監査法人のEY。決算書を審査するドイツの機関、FREP/DPR。
さらに、ドイツの金融監督当局、BaFin。
オックスフォード大学の法律ブログは、こう分析しているんです。これら複数の監視・監督機能に、重大な不全が、重なった、と。
どれか1枚が穴だらけでも、別の傘が防いでくれたかもしれない。でも、何枚もの傘が、いっせいに穴だらけだったんですね。
しかも、外側の傘の1枚、外部監査法人のEYは、ただ批判されただけでは終わりませんでした。
EYは、ドイツの監査監督機関APASから、職業上の義務違反を認定され、処分を受けているんです。罰金が、50万ユーロ。
さらに、ドイツ国内で、上場企業や銀行などの公益事業体の監査を新しく引き受けることが、2年間、禁止されたんですね。
ここで、少し立ち止まってみてください。
皆さんの会社で、経営のやり方をチェックする仕組みは、本当に機能していると感じますか?それとも、どこか形だけになっていないか、と感じる部分はありますか?
役職や経験に関係なく、自分の会社のことを、思い浮かべてみてほしいんです。すぐに答えが出なくても、大丈夫です。
その「迷い」自体が、1つの発見なんですから。
重なって、初めて効く
では、この事件のあと、どうなったのか。
ドイツは、すぐに動いたんですね。2021年7月、FISG。
日本語で「金融市場健全性強化法」という法律が、施行されたんです。これは、Wirecard事件を受けた、抜本的な制度改革でした。
監査や監督の仕組みを、根っこから見直す動きだったんです。
強化されたのは、大きく3つ。
1つ、監査委員会に、会計や監査に詳しい専門家を置く。2つ、外部監査法人の交代を、最長でも10年に早める。
3つ、重大な過失があったときは、賠償責任の上限を外す。
さらに、分断していた財務報告のチェックは、監督当局のBaFinに、一元化されたんです。
こうした動きは、ドイツだけじゃ、ありません。
日本にもコーポレートガバナンス・コードという指針があり、2015年の導入後、2018年、2021年と改訂、2026年4月時点で、さらなる改訂案が公表されています。
改訂のたびに求められてきたのは、独立した社外取締役を増やすこと、取締役会の多様性、情報開示の充実。
経営を、より独立した立場から監督する力を、段階的に強める方向です。国が違っても、向かう方向は同じです。
この回で覚えてほしいのは、ここです。監視は、重なって初めて、効く。
たった1つでは、組織を守りきれない。ここを、ぜひ持ち帰ってください。
次の回へ
皆さんの職場では、同じ危なさを、いくつの目で見ているでしょうか。では、その見張りを、誰がどう分担すればいいのか。
次の回では、会社の内側の守りを、3つに分ける考え方を、取り上げます。分担が見えれば、自分の役割がどこにあるのかも、はっきりします。
この回の持ち帰り
監視は、重なって初めて効く。1つでは守れない
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