#13 権力をチェックする仕組み

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第13回/章「ガバナンス」|読了 約5分

警報は鳴っていた

取締役会が止まれば、巨大な企業でも、消えてしまう。

ドイツのワイヤーカードという決済企業が、現金約2,500億円が確認できず、わずか1週間で、破産の申請に至ったんですね。

警報は5年以上も前から鳴っていた。それなのに、なぜ止められなかったのか。

ここからは、その「止める仕組み」、ガバナンスの正体に入ります。

ガバナンス=統治する仕組み

権力を、誰がチェックするのか。皆さん、一緒に考えていきましょう。

ガバナンスというのは、組織を統治する仕組みのこと、なんです。かみ砕くと、権力を持つ人を、別の仕組みできちんとチェックすること。

経営者には、お金の使い道も人の採用も決められる、大きな権力があります。だからこそ、その権力を野放しにしない。

ここが、ガバナンスの出発点です。

ガバナンスの3要素

この講座では、ガバナンスを、3つの働きで考えていきます。

1つ目は、方向付け。英語でDirection。

組織がどこへ向かうかの方針を決めること。

2つ目は、監督。英語でOversight。

決めたことが正しく実行されているかを確かめること。

3つ目は、説明責任。英語でAccountability。

何をしてなぜそう判断したかを、株主や取引先に説明する義務です。

この3つがそろって、はじめてガバナンスは動くんです。

プリンシパル=エージェント問題

この3つの中でも、「監督」に注目してみますね。そもそも、なぜ経営者を監督する必要があるのか。

ここで押さえたいのが、プリンシパル=エージェント問題、です。

プリンシパルは「依頼人」、エージェントは「代理人」のこと。株主は、自分のお金を出した会社の経営を、経営者に「任せて」います。

お金を出す依頼人と、経営を担う代理人。この構図を、まず押さえてください。

だから、監督する仕組みが要る

ところが、ここに落とし穴があるんですね。依頼人と代理人の利害は、いつも一致するとは限らないんです。

株主は、会社に長く健全に成長してほしい。でも経営者の側は、自分の報酬を増やしたい、今期の業績をよく見せたい。

たとえば、今期の数字をよく見せるために、本来やるべき設備投資や安全対策を、来期に先送りする。

経営者にとっては得でも、会社の将来にとっては損になりますよね。これが、利害のずれです。

この、利害がずれる構造があるからこそ、経営者を監督する仕組みが要るんですね。

監督機関とは

では、その監督を、実際に担うのは誰なのか。

ここで言う「監督機関」とは、経営を監督する役割を担う機関のこと、です。ただ、その担い手は、国や会社のかたちで変わります。

ドイツの二層制では、監督機関は経営とは別の独立した機関、Supervisory Boardでした。

アメリカでは、取締役会が監督を担い、その中に委員会を置いて役割を分けます。日本でも、経営を監督する中心は取締役会です。

ただ日本には、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社という、3つのかたちがあります。

監査役会設置会社は、取締役会の外に、監査役会という別の機関を置いて、経営をチェックします。ほかの2つは、取締役会の中に委員会を置くかたちです。

監査委員会という、合わせ鏡

その監督の中で、経営者の説明を別の目線で確かめる役割があります。経営を、もう1枚の鏡で映し直す。

いわば、合わせ鏡のような働きです。

この役割を誰が担うかも、会社のかたちで変わります。アメリカでは、取締役会の中に置く監査委員会です。

日本の監査役会設置会社では、取締役会とは別に立つ監査役会。監査等委員会設置会社では、取締役会の中の監査等委員会。

そして、監査委員会という名前の機関があるのは、指名委員会等設置会社です。しくみは別物ですが、確かめる役割は重なります。

この回では、この役割を担う機関を、まとめて監査委員会と呼んで進めますね。

監査委員会が、確かめること

では、監査委員会は何を確かめるのか。代表的なものを、4つ見ていきます。

1つ、財務報告の信頼性。決算の数字は、正しいのか。

2つ、内部統制の有効性。社内のチェックの仕組みは、働いているか。

3つ、外部監査の品質。外の監査人は、きちんと仕事をしているか。

そして4つ目。内部監査が、独立して機能しているか。

経営をチェックする内部監査そのものを監督するのも、監査委員会の仕事です。この4つ目が、このあとの報告ラインにつながります。

肝心の鏡が、なかった

ここで、ワイヤーカードに戻ってみましょう。

実は、この会社、その監査委員会そのものが、2019年の初めまで設置されていなかったんですね。ドイツを代表する株価指数の構成銘柄でありながら、です。

これは、異例だと評されました。経営の説明を別の目線で映し直す、合わせ鏡。

その肝心の1枚が、なかったんです。

デュアルレポーティングライン

さきほど、監査委員会の4つ目の役割として、内部監査がきちんと機能しているかを見る、というお話をしました。

ここからは、その内部監査そのものに、目を向けていきますね。

内部監査というのは、経営者から不当な干渉を受けず、客観的な立場で組織をチェックする機能、です。

その内部監査が重要な問題を見つけたとき、声を受け止める相手が必要なんです。

もし、その声が経営者にしか届かないと、経営者自身に関わる問題は扱いにくくなりますよね。

だから、内部監査の責任者には、報告する相手を2つ用意しておくんです。1つは、経営者。

もう1つは、経営者を監督する側、取締役会や監査委員会といった監督機関です。これを、デュアルレポーティングライン、と呼ぶんですね。

権力を、律する仕組み

この2本の線は、受け持つ役割が違います。機能上の報告は、監督機関へ。

監査計画の承認や責任者の人事といった、根幹の決定を受け持ちます。管理上の報告は、経営トップへ。

日々の業務のサポートですね。

この動画の持ち帰りは、ひとつ。ガバナンスとは、権限と責任を設計し、方向付け・監督・説明責任で、権力を律する仕組み。

権力を持つ人を、合わせ鏡のように別の仕組みで映し直す。それが、本質です。

次の回へ

皆さんの職場で、大事な決定は、誰の目を通っていますか。監督の形が整っていても、中身が空っぽになることがあります。

次の回では、その見張る機能が崩れていく姿を、追いかけます。崩れ方を知っていれば、自分の職場の危ない兆しにも、気づけるようになります。

この回の持ち帰り

ガバナンスとは、権限と責任を設計し、方向付け・監督・説明責任で権力を律する仕組み

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