#12 取締役会が止まると会社が消える

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第12回/章「ガバナンス」|読了 約4分

取締役会が止まると会社が消える

ここからは、ガバナンスを学んでいきます。ガバナンスというのは、組織を統治する仕組み、ですね。

取締役会、3ラインモデル、組織文化。この3つの角度から見ていきます。

さて、皆さんは、「取締役会」と聞いて、何を思い浮かべますか。偉い人たちが集まる、自分には関係のない世界。

でも、取締役会が機能しないと、会社そのものが消えてしまうことが、あるんです。

ドイツ=二層制/日本・米国=単層制

舞台は、ドイツ。決済サービスの会社、Wirecard、ワイヤーカードです。

インターネット上の支払いを処理する、フィンテック企業ですね。

ここで、1つ言葉を整理しておきます。「監督機関」です。

経営のことを、業務執行とも言いますね。その業務執行を、別の立場からチェックする。

その役割を担う機関の総称が、監督機関なんです。誰がその監督を担うのかは、国や会社のかたちによって変わります。

実は、この監督機関、国によってかたちが大きく違うんです。まずは、ドイツから見ていきましょう。

ドイツは、経営する人と、見張る人を、制度ではっきり分けています。経営を担うのが、業務執行機関、Management Board。

監督するのが、監督機関、Supervisory Boardです。

このSupervisory Board、日本語で「監査役会」と訳されることがあります。ただ、日本の監査役会と、完全に同じではありません。

経営陣を任命したり解任したりする権限まで持つ、強い独立機関なんですね。

経営と監督を、別々の機関に分ける。これを、二層制ボードと呼びます。

では、日本やアメリカは、どうでしょうか。アメリカは、単層制です。

1つの取締役会が、経営の監督も担う形ですね。日本は、選ぶ機関設計によって、監督の仕組みが変わります。

機関設計には、3つの形があります。監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社です。

たとえば、監査役会設置会社では、取締役会とは別に、監査役会が置かれます。この監査役会が、取締役の仕事ぶりを、独立した立場でチェックするんですね。

日本でも、経営を監督する働きは、制度になっている。名前や仕組みは違っても、経営を監督する働きは、共通なんです。

5年以上、鳴り続けた警告

その仕組みを頭に置いて、Wirecardに戻りましょう。

2018年、Wirecardが、DAXに採用されました。DAXというのは、ドイツを代表する企業で構成される、株価指数ですね。

ここに採用されると、世界中の投資マネーが流れ込んできます。このときの時価総額が、240億ユーロ。

日本円で、約3兆円。しかも、あのドイツ銀行を、抜いたんです。

ところが、なんです。その華やかな表側で、5年以上も前から、「この会社はおかしい」と、声を上げ続けた人たちがいたんですね。

声の中心が、Financial Times。イギリスの金融経済の専門紙です。

記者のダン・マクラムが、2015年から繰り返し、Wirecardの会計にはつじつまの合わないところがある、と報じていました。

輝く表側と、鳴り止まない警報。ここに、崩壊の種があったんです。

取締役会が止まれば、巨大企業でも消える

これだけ警報が鳴っても、報道だけで自動的に調査が始まるわけではありません。動いたのは、Wirecard自身でした。

くすぶり続ける疑惑に決着をつけ、市場の信頼を取り戻す。

そのために、Wirecardの監督機関、つまりSupervisory Boardが、2019年の終わりごろ、大手会計・監査法人のKPMGに特別監査を依頼します。

特別監査というのは、毎年の年度監査とは別に、疑惑の核心そのものを調べる、独立した調査ですね。

2020年4月、KPMGが報告書を公表します。海外の提携先を通じた事業の収益と、その裏付けとなる、第三者の受託者が管理する信託口座の残高。

これらについて、十分で直接的な証拠が、得られなかった。疑惑は、もう噂ではなく、監査でも確かめられない問題に、なっていたんですね。

そして、2020年6月18日。今度は、外部監査法人のEYが動きます。

EYは、長年Wirecardの年度監査を担当し、毎年「適正」のお墨付きを出し続けてきた監査法人です。

そのEYが、19億ユーロ、日本円で約2,500億円の現金残高を確認できず、2019年度の監査報告への署名を、拒否したんです。

ここが、大事なところです。このお金は、「どこかに消えた」のではなく、そもそも本当にあったのかが、確認できなかった。

海外の事業に大きな現金があるように見せて、その裏付けが、どこにもなかったんですね。

ここから先は、わずか一週間の出来事です。

6月18日にEYが署名を拒否、19日に最高経営責任者、CEOのマルクス・ブラウンが辞任、23日に逮捕、25日に破産を申請。

その間に、最高執行責任者、COOのヤン・マルサレクも、姿を消しました。

3兆円の企業が、一週間で消えた。皆さん、覚えておいてください。

取締役会が止まれば、巨大な企業でも消えてしまう。大きな船でも、舵を握る人がいなければ、嵐が来れば沈みます。

Wirecardは、舵を失った巨船だったんですね。

次の回へ

皆さんも、おかしいと思ったことを飲み込んだ経験はありませんか。声が上がっていても、誰も止められない組織があります。

次の回では、権力を誰がどうチェックするのかを、ほどいていきます。その仕組みが分かれば、職場の大事な決定がどこで通るのかも、たどれます。

この回の持ち帰り

取締役会が止まれば、巨大企業でも消える

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