#4 人ではなく、仕組みで守る
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第4回/章「なぜ組織は壊れるのか」|読了 約5分
仕組みで守る/もし機能していたら?
2001年、アメリカの巨大企業エンロンが、破綻しました。実は、ある副社長が、会計の不正を社内で訴えていました。
でも、その告発は、握りつぶされていた。何千人もの社員の、老後のお金が消えた。
決算書をチェックする監査法人までもが、崩壊しました。
皆さん、思いませんか?どうすれば、防げたのか、と。
ここで皆さんに、大切な問いを一つ。
もし、エンロンの中で経営陣から独立した、監督や通報、監査の仕組みが機能していたら。
何かが変わっていた、と思いませんか?
SOX法/サーベンス・オクスリー法/2002年
アメリカは、その問いに動きました。
2002年、米国議会はある法律を成立させます。名前は、サーベンス・オクスリー法、通称SOX法です。
下院は、423対3。上院は、99対0。
ほぼ全会一致だったんです。それだけの危機感があった、ということですね。
第1の柱:経営者の責任/自ら認証
SOX法で強化されたポイントは、大きく3つです。
1つ目は、経営者の責任。
これ、何が画期的だったか。
エンロンの社長スキリングは、辞めるときこう言いました。「個人的な事情です」、と。
業績絶好調だ、と発表していた会社のトップが、です。
ここに、つまり、トップが数字に責任を負わずに済んでいたことに、SOX法は強烈なメスを入れたんですね。
会社の決算書、つまり財務報告です。その内容が正しいかどうか。
これを、社長と財務責任者、CEOとCFOが、自分の名前を書いて、自ら認証する。
認証というのは、「中身が正しいです」と名前を書いて、責任を引き受けるということなんです。
嘘の認証 → 経営者本人が刑事罰
署名する以上、「経理が勝手にやった」では、もう済まされないんですね。
それどころか、嘘の認証をしたら、経営者本人が、刑事罰の対象になるんです。
これが、1つ目の柱、経営者の責任です。
第2の柱:内部統制の評価
2つ目は、内部統制の評価。
内部統制という言葉、ここで初めて出てきました。難しそうに聞こえますよね。
でも、シンプルなんです。
会社の業務に、ブレーキとチェックを組み込んでおく。不正やミスが起きにくくなる、起きてもすぐ見つかる。
そういう仕組みのことなんですね。
SOX法は、経営者にこう言いました。「あなたの会社の内部統制が、ちゃんと機能しているか。
それを、自分で評価して、報告しなさい」、と。
第3の柱:監査人の独立性
3つ目は、監査人の独立性と、通報者の保護。
エンロンの監査法人、アンダーセン。
アンダーセンは、エンロンから週に100万ドルの報酬を受け取っていました。独立した立場で厳しく見るはずが、お得意さまには甘くなっていたんですね。
通報者の保護
そして、副社長のワトキンスが告発しても、社内に、独立した立場で受け止めて調べる仕組みがなかった。握りつぶされてしまった。
だからSOX法は、この2つを同時に手当てしたんです。
監査人が、本当に独立して仕事ができるように。そして、声を上げた人が、潰されないように。
これが、3つの柱なんですね。
日本でも、似たような問題/決算書の数字が本当の数字じゃない
この流れは、日本にも届きました。
日本でも、似たような問題が起きていたんです。
2004年、西武鉄道。親会社が大株主の持ち株比率を、長年、本当の数字より少なく見せていたことが発覚しました。
2005年、カネボウ。化粧品で有名な、あの会社です。
2,000億円規模の粉飾決算が明らかになりました。
投資家に見せる書類の数字が、本当の数字じゃない。エンロンと、構図はそっくりだったんですね。
金融商品取引法/J-SOX/2008年4月
ここで日本も動きました。
2006年、金融商品取引法という法律ができます。上場企業の決算書を信頼できるものにするための、日本の根っこの法律です。
その中に、内部統制報告制度というルールが組み込まれた。これが、通称J-SOXです。
2008年4月から、上場企業に義務づけられました。
J-SOXのJは、もちろん日本のJ。アメリカのSOXを参考にした、日本版のSOX、ということなんですね。
違い①罰則の重さと運用
ここで皆さん、気になりませんか?じゃあ、J-SOXとアメリカのSOXは、中身も同じなのか、と。
骨組みは、同じです。経営者が、自分の会社の内部統制を評価して、報告する。
これは共通。
でも、運用は、日本の事情に合わせて、少し違うんですね。
たとえば、罰則。アメリカのSOXは、虚偽認証をした経営者に、刑事罰、つまり懲役まで用意しました。
かなり厳しいんです。J-SOXにも刑事罰はありますが、上限はアメリカよりずっと軽く、実際の運用は、行政の処分や課徴金が中心なんですね。
違い②外部のチェック:そのまま輸入はしない
たとえば、外部のチェック。アメリカは、一定規模以上の上場企業に対して、監査法人による厳しい第三者チェックを義務にしました。
J-SOXも監査法人のチェックは入りますが、中身や負担感は、日本企業の実態に合わせて調整されています。
アメリカの硬直性を、そのまま輸入はしない。日本の上場企業が、現実に回せる範囲で、内部統制を強化していく。
そういう設計思想なんですね。
仕組みは、世界に広がっていった。そして、それぞれの国の事情に合わせて、形を変えながら根づいていった、ということなんです。
悪意を、止められない、仕組みの欠陥
皆さん、ここで視点を切り替えてほしいんです。
エンロン事件を「悪い経営者がいたから起きた」と片付ける人がいます。
でも、それ、本質じゃないんですね。
組織の崩壊は、悪意ある人だけで起きるんじゃない。悪意を止められない、仕組みの欠陥。
これが、崩壊を広げるんです。
仕組みで、守る
組織を守るのは、仕組みの「存在」じゃないんですね。
仕組みが独立して機能すること。これが組織のセーフティネットなんです。
人の善意に頼る組織は、いつか壊れます。仕組みで、守る。
それが、内部監査の出発点なんです。
この回で覚えてほしいのは、ひとつだけです。
「仕組みの欠陥が組織を壊す。仕組みで、守る」。
次の回へ
皆さんの職場を支えているのは、誰かの頑張りでしょうか。それとも、仕組みでしょうか。
では、その仕組みを見る内部監査は、何をする仕事なのか。次の回では、多くの人が抱く誤解から、その正体に迫ります。
誤解がほどければ、職場で何を見ればいいかも、見えてきます。
この回の持ち帰り
仕組みの欠陥が組織を壊す。仕組みで守るのが内部監査の出発点
内部監査の「考え方」を、演習で確かめる。
CIA 学習アプリでは、229論点の問題演習に加えて、論点ノートも読めます。会員登録なしで、まずは10問だけ無料で試せます。
無料10問を試す(登録不要) 論点ノート(冒頭無料)を読む