#3 握りつぶされた警鐘

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第3回/章「なぜ組織は壊れるのか」|読了 約4分

警鐘と崩壊

2001年に破綻した、アメリカの巨大企業、エンロン。

本当は抱えていた借金を決算書に載せず、まだ入っていない将来の利益を先に計上して、実態のない好業績を作っていました。

株価を支えていたのは、砂の上に建てた城、砂上の楼閣だったんですね。

ここで、疑問が湧きませんか。社内の誰も、気づかなかったのか、と。

実は、気づいた人がいたんです。

8/14 CEO辞任

舞台は、2001年8月14日。

就任わずか6ヶ月で、CEOのスキリングが突然辞任したんです。

これ、異例中の異例なんですね。普通、CEOは何年もかけて成果を出すポスト。

半年で辞めるなんて、まずないんです。

しかも表向きの理由は、「個人的な事情」だけ。

業績絶好調と発表していた会社のトップが、逃げるように去ったんです。

市場の投資家は、こう感じたんです。「内部で、何かが起きている」、と。

エンロン株への信頼が、揺らいだ瞬間だったんですね。

内部告発(whistleblower)

そして、その翌日、8月15日。

副社長のシェロン・ワトキンス。会社の財務や事業開発に関わる、重要なポストにいた人なんです。

つまり、エンロンの内部で何が起きているかを、一番よく知っている人たちのひとりだったんですね。

そういう立場の彼女が、会長のレイ宛てに、内部告発のメモを送ったんです。

その中身が、すさまじかった。

内側から崩壊する

メモの冒頭にはこう書かれていました。

「私は、怖くてたまらない。会計スキャンダルの波で、この会社は内側から崩壊する」。

冒頭のこの一文で、すべてを言い当てていたんです。

レイCEOの対応

ところが、会長のレイはどうしたか。

社内で自分たちで徹底調査をしなかったんです。外部の顧問弁護士事務所に、調査を依頼したんですね。

名前は、ビンソン・アンド・エルキンスというところです。

一見、公平な第三者に任せたように見えますよね。でも、ここが大事なんです。

利害関係あり

実は、この法律事務所、ビンソン・アンド・エルキンス。エンロンから多額の顧問報酬を受け取っていた、利害関係のある相手だったんです。

そんな相手に「うちを調査して」って。客観的な判断、できるでしょうか。

握りつぶされた手紙

結論は、「本格的な追加調査は要らない」。つまり、重大な問題なし、でした。

つまり、利害関係のある弁護士事務所に「調査してください」と頼んだ結果が、「うちは問題ありません」だったんです。

告発は、握りつぶされたんですね。ワトキンスの警鐘を、独立した立場で、真剣に受け止める仕組みがなかった。

米国史上最大の企業破綻

そこから先は、坂を転げ落ちるようだったんです。

10月22日、アメリカの証券取引委員会、SECが調査を開始しました。そして11月30日。

株価は、前の年の8月につけた最高値90ドルから、わずか26セントに暴落しました。

12月2日、連邦破産法第11章を申請します。当時の米国史上、最大の企業破綻なんです。

401(k)=米国退職年金

被害は、会社だけじゃなかったんです。

ある社員を、思い浮かべてください。毎月の給料の一部を、自社の株でコツコツ積み立てていた人です。

その退職口座が、ゼロになりました。

実は、そういう人が、何千人もいたんです。

エンロンの401(k)というのは、米国の退職年金制度なんですね。多くの社員が、退職後の生活資金として、毎月の給料の一部を預けていた。

老後の、お金まで

ところが、その大切な退職資金が、自社の株、エンロン株に偏って運用されていたんです。

従業員の老後のお金の多くが、エンロン株に集中していた。だから、株が紙切れになった瞬間、老後のお金の多くが、一緒に消えちゃったんですね。

外部監査人の独立性

そして、監査法人アーサー・アンダーセン。

当時、世界の五大会計事務所のひとつでした。ビッグ5と呼ばれていた、超大手だったんです。

本来、監査法人の役割は、「この決算書は本当ですか?」と、独立した立場で厳しくチェックすること。

ところが、アンダーセンはエンロンから、毎週100万ドル規模の報酬を受け取っていたんです。監査の報酬と、コンサルティングの報酬を合わせて、です。

そこまで大きなお金をもらっていたら、「いや、本当は疑わしいんです」と、言いにくくなりますよね。

会計事務所4大化(Big 4)

不正が発覚したあと、アンダーセンは、エンロン関連の文書を廃棄しました。証拠隠滅だ、と見なされたんです。

これで司法妨害の罪に問われたんですね。

ここからが大変なんです。有罪評決を受けた監査法人に、もう監査を頼みたい会社はありません。

「監査の信頼性」こそが、監査法人の命ですから。

クライアントが次々と離れて、アーサー・アンダーセンは、事実上、崩壊してしまったんです。

「ビッグ5」は「ビッグ4」になりました。監査法人が、こんなに簡単に消える。

誰も想像していなかったんですね。

ちなみに、この有罪評決は、2005年に最高裁でくつがえりました。でも、失った信頼は、戻りませんでした。

次の回へ

監査法人まで崩れました。でも、最初に声を上げた人は、社内にいたんです。

その声が届く場所がなければ、組織は同じ道をたどります。どうすれば止められたのか。

次の回では、その答えを探していきます。答えが分かれば、職場で何を求めればいいかも、見えてきます。

この回の持ち帰り

内部の声を受け止める仕組みがなければ、告発があっても組織は崩壊する

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