#2 優良企業はなぜ崩れたのか、不正の種明かし

内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第2回/章「なぜ組織は壊れるのか」|読了 約4分

種明かし

2001年、アメリカ。全米第7位の巨大企業エンロンが、たった数ヶ月で消えました。

原因は、決算書です。その数字が、本当の数字じゃなかったんですね。

でも、不思議じゃありませんか。決算書の数字なんて、そう簡単に偽れるものなのか、と。

今回は、その「種明かし」をしていきます。エンロンが、どうやって数字を偽ったのか。

一つずつ、見ていきましょう。

簿外債務

数字を偽る、その入口になったのが、「簿外債務」というものです。

簿外債務、というと難しく聞こえますよね。「簿」は、会社の帳簿のこと。

「外」は、その外側、という意味です。つまり、決算書には載っていない借金、ということなんですね。

会社に借金があるのに、それを決算書に書かない。そうすれば、書類の上では、借金のない健全な会社に見えてしまう。

SPE=特別目的事業体

では、その借金を、どこに隠したのか。

エンロンは、SPEと呼ばれる仕組みを、たくさん作っていました。

SPE、英語でSpecial Purpose Entity。日本語にすると、特別目的事業体です。

簡単にいうと、条件を満たせば、本体の決算書に載せなくていい、別の会社のことなんですね。

ここに借金を移してしまえば、本体の決算書からは、その借金が消えて見える。そういう器なんです。

約500(とされる)

では、エンロンは、その別会社をいくつ作っていたか。その数、なんと約500です。

皆さん、ピンと来ますか。ふつう、グループ会社って、せいぜい数十社ですよね。

それを、本体とは別に、500も作っていたんです。

普通の会社経営で、ここまでの数は要りません。これだけで、なにかおかしい。

そう思いませんか。

道具に罪はない

ここ、注意してください。SPEそのものは、違法じゃないんです。

ある事業のリスクや資産を、本体から切り分けて、別の器で管理する。そういう、まっとうな使い方も、たくさんあるんですね。

日本でも、不動産の証券化、つまり不動産を小口の金融商品にする仕組みなどで、ごく普通に使われているんです。

道具に、罪はない。問題は、その道具の使い方だったんですね。

売り手も、買い手も

問題は、エンロンの場合です。その箱、本当は独立していなかったんですね。

CFO、つまり財務のトップであるファストウ本人が、SPEの運営責任者にもなっていたんです。

エンロンが、SPEに資産を売る。その売る値段を決めるのは、ファストウ。

そして、買う側の責任者も、ファストウ。

会社のお金を管理する人が、売る側にも、買う側にも立っていた。これを、利益相反といいます。

同じ人が、両方の立場で得をしてしまう、危ない構造なんですね。

独立は、見せかけ

ここで、何が起きるか。

本来、SPEというのは、外部の投資家がリスクを負っている。それが、決算書から切り離していい、大前提なんです。

だから、本体の決算書に載せなくてもいい。

ところが、エンロンの場合、そのリスクは、本当はエンロン自身に残っていたんです。

外から見ると、独立した会社のフリをしている。でも中身は、エンロン自身。

独立性は、見せかけだったんですね。

借金が、消える

その結果、どうなったか。

決算書から、負債が消えていく。そして、利益だけが、きれいに残って見える。

投資家は、その決算書を見て、「素晴らしい会社だ」と信じます。

でも、実態はどうだったか。SPEという別の箱の中に、巨大な借金が、ぎっしり隠されていたんですね。

見えている数字と、本当の姿が、まるで違っていた。

時価会計

そして、数字を偽る仕掛けは、もう一つあります。

エンロンは、「時価会計」という仕組みも悪用しました。時価会計、英語でマーク・トゥ・マーケット。

これは本来、市場で値段がついている金融商品を、今の時点の値段で評価し直す、という会計のやり方なんですね。値動きする資産を、いまの実勢で見る。

これ自体は、まっとうな仕組みなんです。

将来の利益を先取り

ところが、エンロンは、これをどう使ったか。

エンロンには、エネルギーの長期契約がたくさんありました。何年もかけて、少しずつ利益が入ってくる、そういう契約です。

その、これから何年もかけて入ってくるはずの利益。それを、契約した瞬間に、一気に計上していたんです。

まだ手元に入っていない、将来のお金。それを先取りして、今の決算書に並べてしまった、ということなんですね。

市場の値段がない長期契約は、将来の儲けを自分たちで見積もって、その見積もりを今の利益にしていたんです。

砂上の楼閣

簿外債務で、借金を消す。時価会計で、将来のお金を先取りする。

その結果、決算書の上では、見たこともないような好業績の会社が出来上がりました。でも、その業績には、実態がなかったんです。

皆さん、見たことありますよね。砂で作ったお城。

遠くから見れば、立派なお城に見える。でも、波が一回来ただけで、あっけなく崩れ落ちる。

エンロンの好業績も、まさにこの、砂上の楼閣だったんですね。

複雑さは、隠れ蓑

この回で覚えてほしいのは、ひとつです。

SPEに、時価会計。エンロンの仕掛けは、わざと複雑に作られていました。

複雑な仕組みは、実態を見えなくするんです。専門家でも、ぱっと見では分からない。

だから、見抜かれにくい。

そして、その複雑さを止める仕組みが弱いと、組織は壊れていく。これが、エンロンが教えてくれたことなんですね。

次の回へ

「よく分からない」を、そのままにしない。それが、皆さんの職場でできる最初の一歩です。

では、これだけの仕掛けに、社内で気づいた人はいなかったのか。次の回では、そこに迫ります。

その答えが分かれば、皆さんが職場で何を見ればいいかも、見えてきます。

この回の持ち帰り

複雑な仕組みは、実態を見えなくする。それを止める仕組みが弱いと、組織は壊れる

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