#33 形だけの監査は、監査じゃない
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第33回/章「独立性と倫理」|読了 約4分
形だけの監査は、監査じゃない
内部監査人には、支える「背骨」があります。独立性、客観性、倫理、専門能力。
今回は、その独立性です。組織を守るのは、人の頑張りではなく、仕組みなんですね。
その仕組みを、経営者から独立した立場で検証する。それが、内部監査です。
ひとつ、想像してみてください。ある会社に、内部監査部門があります。
監査計画も、報告書も、ちゃんと作っている。形の上では、何も問題がないんですね。
でも、その部門が、社長の指示に逆らえない立場だったら。それでも「監査が機能している」と、言えるでしょうか。
答えは、ノーです。形だけの監査は、監査じゃないんですね。
でも、7年間
舞台は、東芝です。2015年に発覚した不正会計は、日本中に衝撃を与えました。
ただ、東芝は、当時、ガバナンスの先進企業として見られていたんですね。2003年に、いまの指名委員会等設置会社に移行しています。
取締役会の中に、監査委員会、指名委員会、報酬委員会の3委員会を置き、過半数を社外取締役にして、経営を監督する仕組みです。
形の上では、完璧に近かったんですね。監査計画もある。
委員会もある。報告書もある。
なのに、不正は7年間も続いていました。なぜ、止まらなかったのか。
監査の仕組みは、あった
東芝の経営トップは、現場にこう求めていました。「チャレンジ」と。
これ、「頑張れ」という意味じゃないんですね。「利益目標を、何としてでも達成しろ」という、強い圧力です。
しかも、できない理由は、聞いてもらえない。現場が、逃げ場を失っていく圧力だったんです。
その圧力の下で、4つの事業が、それぞれの手口で利益を水増ししていきます。インフラ事業では、原価を少なく見積もって、売上を前倒しに計上する。
映像事業では、取引先に頼んで、請求書の発行を遅らせてもらう。半導体事業では、在庫の評価額を操作する。
パソコン事業では、部品取引でかさ上げする。
第三者委員会の指摘を受けて、東芝自身が発表した決算の修正額は、税引前損益で2,248億円。
7年間ためこんだ水増しが、これだけの規模になっていたんですね。
そして、責任を取って、現社長、前社長、元社長と、歴代3社長が辞任します。
第三者委員会は、その背景に「上司に逆らえない企業風土」があったと指摘しています。逆らえないから、現場は不正を止められなかったんですね。
ここで、大事なことを確認します。東芝には、監査委員会も、内部監査部門も、ありました。
監査の仕組みは、設置されていたんです。それなのに、誰も止められなかった。
なぜなんでしょうか。
あなたの組織は、どうか
ここで、2つの登場人物を整理しておきます。ひとつは、監査委員会。
東芝のような指名委員会等設置会社で、取締役会の中に置かれる、経営を監督する委員会ですね。もうひとつが、内部監査部門。
こちらは、機関設計(会社の組織の形)にかかわらず、多くの会社にある、現場のリスクや、それを抑えるルール・仕組み(統制)をチェックする部署です。
今回の主役は、この内部監査部門のほうなんです。
監査委員会の本来の役割は、経営から独立した立場で、経営のやり方をチェックすることです。
内部監査部門の本来の役割は、組織のリスクや統制を独立した目で評価して、その危うさを取締役会へ届けること。
そして、内部監査部門は、多くの場合、その監査委員会に支えられて働きます。監査委員会が、後ろ盾になる。
監督する側と、報告する側の、縦の関係なんですね。
ところが、東芝では、それができませんでした。監査委員会の側には、財務や経営の執行に近い人物がいたんです。
自分が関わった処理を、自分で監査しかねない構造でした。これでは、おかしいと言えませんよね。
内部監査部門も、経営者に事実上、従属していました。経営者自身が不正に関わっているのに、その下の監査部門が、危うさを取締役会へ届けられるでしょうか。
ここで、覚えてほしい言葉が、2つあります。独立性と、客観性です。
内部監査人の独立を支える、2つの面なんですね。ひとつは、組織の問題。
組織上の独立性、organizational independence です。内部監査部門が、誰に報告するか、という構造の話ですね。
もうひとつは、人の問題。客観性、objectivity です。
監査をする人が、偏りなく判断できるか、という姿勢の話。ひとつは組織、もうひとつは人なんですね。
東芝では、この両方が、欠けていました。だから、内部監査人協会(IIA)の関係者からも、「内部監査の独立性が機能しなかった事例」として論じられています。
番犬を、思い浮かべてください。賢い番犬でも、飼い主の言いなりだったら、たとえその飼い主が泥棒でも、吠えられません。
経営者に従属した監査も、同じなんですね。形だけの監査は、監査じゃない。
独立性は、形式ではなく実質。組織の独立性と、人の客観性。
この2つがそろって、はじめて監査が機能します。
ここで、考えてみてください。皆さんの会社にも、内部監査の部署や、監査役の方がいるかもしれません。
その人たちは、社長に逆らえる立場にあるでしょうか。ここを、持ち帰ってください。
次の回へ
書類を見れば、形が整っているかは分かります。でも、効いているかどうかまでは、書いてありませんよね。
では、その実質は、どうやって守るのか。次の回で、守り方を組み立てます。
形と実質の違いが頭に入れば、職場の決まりを見るとき、効いているかまで確かめられます。
この回の持ち帰り
形だけの監査は監査じゃない。独立性は形式でなく実質。組織の独立性と、人の客観性、この2つがそろって監査は機能する
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