#25 全部は、見られない
内部監査入門(事件でわかる、内部監査の考え方)|第25回/章「リスク」|読了 約5分
100対5の現実
リスク対応は、なりゆきでなく、意識して選ぶものです。整理も把握もせず続くのは、受容(リスクを把握したうえで、意識的に引き受けること)ではなく放置。
リスク管理は、リスクをゼロにすることではなく、賢く選ぶことなんですね。
ここからは、その先の問いを考えます。皆さん、想像してみてください。
皆さんの会社に、100のリスクがあるとします。でも、内部監査チームは、5人。
全部を見ることは、物理的に、できないんです。さあ、どこから手をつけますか。
今回は、その優先順位の考え方、リスクベース思考を学んでいきます。
見ないのではなく、選ぶ
リスクベースの考え方は、実は、とてもシンプルなんです。たくさんあるリスクに、大きさで、見る順番をつける。
大きいリスクから、先に見る。当たり前のようですが、これが出発点なんですね。
では、リスクの大きさは、どう測るのか。基本になる軸は、二つです。
一つは、影響度。もし起きたら、どれだけ大きな打撃になるか。
もう一つは、発生確率。そもそも、どれくらい起きやすいか。
この二つを掛け合わせて、リスクの大きさを見るんですね。
この二つの軸で、リスクを四つの組み合わせに分けて考えます。影響度が大きく、発生確率も高い。
ここには、限られた監査の力を、集中させます。逆に、影響は大きいけれど、めったに起きないリスク。
ここは、見る頻度は下げても、備えだけは確かめておくんです。
起きやすいけれど、影響が小さいリスク。これは、現場の対応に任せて、監査は深入りしないことが多いです。
そして、影響も小さく、起きる確率も低いリスク。ここに、毎年同じだけの力を、かけ続けなくてもいいんです。
見る頻度を下げる。その年は、優先順位を下げる。
こうやって、四つの組み合わせで、力の入れ方を変えていく。これが、リスクベースの基本です。
見ないと決めているのではありません。いつ、どれだけ見るかを、選んでいるんですね。
文書化された評価/年1回/取締役会の承認
ここで、一つ、引っかかった方がいると思います。全部見なくて、いいんですか、と。
ハッキリ言います。全部は、見なくていいんです。
むしろ、全部を見ようとすることが、問題なんですね。
絵を、思い浮かべてみてください。絵の具は、限られています。
その絵の具を、画面全体に薄くのばすと、どこも中途半端になる。本当に描きたい一点を、深く塗り込むことができないんです。
監査も、同じなんですね。広く薄く、ではなく、深く一点。
これが、戦略的な集中です。
リスクベース思考とは、完璧主義を、放棄することではありません。戦略的に、集中することなんです。
リスクの大きいところに、力を集中する。だから、リスクベースと呼ぶんですね。
では、何を見て、何を後回しにするのか。それは、思いつきで決めるものでは、ありません。
組織の戦略、目標、そしてリスク。これらを評価した、文書になった資料。
それに基づいて、計画を立てるんです。
これが、内部監査の国際基準が求めていることなんです。IIA、内部監査人協会が2024年に公表した、内部監査の国際基準、GIAS。
その基準9.4は、こう示しています。
監査計画は、文書化された評価に基づくこと。その評価は、少なくとも年に1回。
そして、計画は、取締役会の承認を受けること。戦略的な集中には、こうした根拠の裏づけがあるんですね。
計画に、急いで組み込む
このリスクベース思考が、世界規模で試された出来事があります。2020年初頭の、COVID-19パンデミックです。
皆さんも、覚えていますよね。オフィスが閉まり、出張が止まり、日常が一夜で変わりました。
内部監査の世界でも、3か月前に作った年間監査計画が、突然、使い物にならなくなったんです。
IIAが2020年4月に行った、北米中心の速報調査があります。
それによると、内部監査部門の75%が、パンデミックに対応して、監査計画を更新したんですね。3か月前の前提が、もう通用しない。
だから、計画を作り直したわけです。
この調査でもう一つ大事なのは、対応が、部門ごとに違ったことです。一部の部門は、新しいリスクに向き合うため、追加の監査テーマを立ち上げました。
別の部門では、予定していた監査を縮小しました。そして、監査スタッフを、本来の監査からいったん離して、会社全体の危機対応を支える側にまわしたんです。
同じ行動を全部門がしたのではなく、それぞれが、いま何が重要かを、選び直したんですね。
では、何が新しいリスクとして浮上したのか。まず、サイバーセキュリティです。
全社員が突然リモートワークに移ると、セキュリティの穴が、一気に広がりました。
米国では、FBI、連邦捜査局のサイバー犯罪の通報窓口に寄せられた苦情が、2020年に約79万件。前年から、69%も増えました。
偽のメールやサイトで情報を盗む、COVID関連のフィッシングも、急増しました。
そして、BCP、つまり事業継続計画。災害や感染症が起きても重要な業務を止めないための計画ですね。
その計画が、紙の上だけでなく、本当に機能するのか。内部監査が、確かめるべき対象になりました。
従業員の健康と安全をどう守るか。取引先からの供給が止まらないか。
重点外だった領域が、一気に最重要リスクに浮上したんです。
多くの部門では、従来の計画でのサイバーやBCPの優先度を、急いで見直す必要が生じました。だから、計画に、サイバーやBCPを、急いで組み込み直す。
限られた力を、いま最も大きいリスクに、振り向け直したんですね。
次の回へ
昨日まで最重要だったものが、今日もそうとは限りません。選び直せるかどうかが、力の差になるんですね。
では、いま重要だと決めたリスクは、ずっと同じままなのか。次の回で、その先を考えます。
見直す癖がつけば、期の途中でも、点検の順番を組み替えられます。
この回の持ち帰り
リスクベース思考は完璧主義の放棄でなく戦略的な集中
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